作家の原尞さんが亡くなった。
『天使たちの探偵』を読んだ時の衝撃は忘れられない。とはいえ、内容はすっかり忘れているけれど。
ずっとまえ朝日新聞に作家の口福という欄があり、担当作家が思い出の味を語る記事があった。原さんは大抵の方とは違い、夢中になって『カラマーゾフの兄弟』を読んでいた時のカップラーメンと書いていた。
夜道を歩いていた時にもどんなに暗くても手離せなかったのは、『それまでの明日』とカポーティの『冷血』だけで、
記憶の中で『それまでの明日』が暗い街灯と結び付いている。
そういう本の記憶を重ねていきたいなと常々思っていて、原さんの作品はその中にすっぽりと入っている。
沢崎はいつまでも喫煙者で電話交換手の女性と話し、名前が不明のまま。
これからもずっと。
新作を読めないこと、沢崎の歩く先をもう見られないことが悲しい。