五月三十五日

どんな自分なら許せるのか、どんな人生であれば引き受けられるのか

5/11

作家の原尞さんが亡くなった。

『天使たちの探偵』を読んだ時の衝撃は忘れられない。とはいえ、内容はすっかり忘れているけれど。

 

ずっとまえ朝日新聞に作家の口福という欄があり、担当作家が思い出の味を語る記事があった。原さんは大抵の方とは違い、夢中になって『カラマーゾフの兄弟』を読んでいた時のカップラーメンと書いていた。

 

夜道を歩いていた時にもどんなに暗くても手離せなかったのは、『それまでの明日』とカポーティの『冷血』だけで、

記憶の中で『それまでの明日』が暗い街灯と結び付いている。

そういう本の記憶を重ねていきたいなと常々思っていて、原さんの作品はその中にすっぽりと入っている。

 

沢崎はいつまでも喫煙者で電話交換手の女性と話し、名前が不明のまま。

 

これからもずっと。

 

新作を読めないこと、沢崎の歩く先をもう見られないことが悲しい。